【対談企画:前編】
EV普及に向けた課題と解決に必要なアクションとは

2022/02/28

EV普及に向けた課題と解決に必要なアクションとは<対談企画:前編>

カーボンニュートラル社会の実現に向けて国際的な動きが加速するとともに、国内では災害の激甚化も喫緊の課題として対応が求められる中で、「脱炭素」「防災」どちらの面でもキーデバイスとなるEV(電気自動車)がますますその存在感を増しています。
今回は、EV普及に向けた現状の課題とその解決に必要なアクションなどをテーマに、EVをはじめ、自動車のIT化、ライフスタイルなどモビリティ全般に幅広い知識をお持ちの株式会社三菱総合研究所 営業本部 杉浦孝明さんに対談形式でお話を伺いました。

東京電力ホールディングス株式会社
EV推進室 企画グループ
マネージャー

新庄 晶太

2003年入社。電力供給計画の基になる電力需要の分析・予測に長らく携わり、2011年の福島第一原子力発電所での事故後は、除染費用の賠償業務などにも従事。2020年10月よりEV推進室に配属。今までの業務経験から、定量評価に基づき相手方にご理解いただくことを意識しながらEV推進事業に携わっている。

新庄 晶太

まずはEVが普及できる土台づくりから

新庄「2019年に国際イニシアチブ「EV100」※1に参加しているTEPCOは、自社グループの業務車両約3800台を2025年度までに50%、2030年度までに100%電動化するという目標を設定しています。杉浦さんはEVの普及に向けてどのような課題があると感じていますか?」

  • ※1 

    輸送手段の電化(Electro-mobility)を目的に掲げて、2017年9月に発足した国際企業イニシアチブ。EV推進企業が結集し、投資・政策を促進することを目指しており、社用車のEV化、充電器の設置などEV化を推進していることが参加の前提となる

杉浦「バリエーションの少なさはEV化を推進するにあたってクリアしなければいけない大きな課題の一つですよね。そもそも業務用車両のように該当する車両がないと選びようがありませんし、乗用車についてもラインアップが増えてきたものの、まだまだ選択肢が少ない。バッテリーEVが一部のカテゴリーに偏っている現状が変わらないと、広く普及させるのは難しいように思います」

新庄「特に軽自動車のEVが欲しい、というニーズが高いですね。2020年にTEPCOとNTT、日立製作所、リコーの4社で『電動車活用推進コンソーシアム』という事業体を立ち上げました。EVを導入したい企業と自動車メーカーに会員になっていただいて、『こういう仕様の業務車両がいい』といったユーザーニーズを集約して、自動車メーカーへ提言しています。車格、航続距離、荷室スペースなど、車両のユースケース、運行オペレーションに合った仕様を共通化することで、EVを導入しやすい環境を作ることが狙いの一つです」

杉浦「ユーザーと自動車メーカーがタッグを組み、EVを使いやすい、EVを作りやすい環境を整備しよう、というのは新しい試みですね。街中を走る業務用車両が電動化されれば、一般ユーザーにとってもEVが身近に感じられるようになるかもしれません」

新庄「ありがとうございます。コンソーシアムでは車両仕様の提言だけでなく、社有車として導入するにあたっての課題の共有、充電環境整備に向けた課題の解決なども行っていきたいと考えています」

EVをはじめ、自動車のIT化、ライフスタイルなどモビリティ全般に幅広い知識を持つ杉浦さん

EVをはじめ、自動車のIT化、ライフスタイルなどモビリティ全般に幅広い知識を持つ杉浦さん

EVの普及はニーズの多様化が鍵

杉浦「EVの話になると必ず『航続距離が内燃機関車並みに長くならないと、あるいはより短時間で充電できるようにならないと普及しない』という問題に突き当たります。でも私はちょっと別のアプローチもあるのではと思っています。一般の人が普段買い物をしたり、家族を送迎したりする生活圏内はおよそ5km圏内。1日乗ってもせいぜい10km、20km程度が日常的な使い方です。その範囲内なら現状の技術でも十分対応可能で、蓄電池のイノベーションを待つ必要がありません。航続距離を伸ばすためにバッテリーを大型化するとコストがかかり、それだけ車両価格が高くなります。航続距離はそこそこでいいから、低価格で買える街乗りEVというニーズも今後はあり得るのではないでしょうか」

新庄「その通りかもしれません。ただ、そうしたシーンを含めて、ユーザーとしては街中に充電できるスポットがたくさんあった方が安心ですよね。
現在、東京電力グループの(株)e-Mobility Power(イーモビリティパワー)が運営するEV向けの公共用急速充電器が全国に約7000基(口)あり、2025年までに充電口数を倍にしようと計画しています。私たちが導入する業務車両EVも、担当エリアが広くて航続距離が長い場合など、自社構内の充電だけでは足りず経路充電が必須のケースがあり、公共充電器を積極的に活用しています。
他方で、特定の法人EVユーザーのみが利用する共同利用型充電サービスの実証実験※2も進めています。商用車や業務車をEV化する場合、自事業所内に充電器を敷設しようとすると、充電設備工事の費用負担が大きくなったり、賃貸・機械式駐車場のため敷設ができないケースがあります。
しかし、公共充電サービスのみで運用すると、必ず使いたいタイミングにもかかわらず、他の利用者が使用している等で充電ができず、業務に支障をきたすことも想定されます。そこで、特定の法人間で共同利用し、事前に予約した時刻に確実に充電できる共同利用モデルなどの選択肢を広げていくことも重要だと捉えています。こうした取り組みを通じて、『業務に支障が出ないよう、EVを運用するにはどうしたら良いか』といった知見を積み上げ、お客さまへのサービスに活用していくというストーリーを考えています」

  • ※2 

    実証実験=2020年11月~2021年2月、山梨県南アルプス市において、充電面の課題解決を目的に、1基の急速充電器を計21社・団体で共同利用する実証実験を実施。電力需給動向を反映した時間帯別の充電料金設定による効果的な充電方法などを検証した(経済産業省2020年度「商用車を活用した物流MaaSの実現に向けた研究開発・実証事業」)。また、今年度は、2021年11月~2022年1月、静岡県沼津市において、周辺地域の計13社・団体に対して試験的サービスを提供。充電器で使われる電力は、「グリーン電力証書」の取得により、再生可能エネルギー由来の環境価値を100%付加したカーボンフリーとなっているため、走行中のCO2排出量をゼロにすることができる(経済産業省2021年度「電動商用車を活用した物流MaaSの実現に向けた研究開発・実証事業」)。

共同利用型充電サービスの実証実験のイメージ図(2021年11月~2022年1月、静岡県沼津市にて実施)

共同利用型充電サービスの
実証実験のイメージ図
(2021年11月~2022年1月、
静岡県沼津市にて実施)

「インフラ整備こそエネルギー供給事業者として積極的に推進すべき事業」と新庄

「インフラ整備こそエネルギー供給事業者として積極的に推進すべき事業」と新庄

杉浦「シェアという考え方ですね。いいアイデアだと思います。多様なニーズに応えていくことで、EVの普及にまた一歩近づくことになるのかもしれませんね。一方で既存の車と同じ使われ方を想定した場合、たまの帰省や旅行など遠出するシーンのことも考えなくてはなりませんね。高速道路のサービスエリアにも、もっと多くの急速充電スタンドが欲しいところです。交通需要にはバースト性と呼ばれるものがあり、長期休暇中などにはサービスエリアが大変混み合います。EVが普及してきたときに、充電待ち渋滞が起きてしまうのではないかという心配があります」

新庄「そこは当グループでも当然、危機感を持っていまして、当社、e-Mobility Power、ニチコン株式会社と共同で、1基の充電器に複数の充電口を取り付け、複数台のEVを同時に充電できる急速充電器を新たに開発しました。2021年12月には、首都高速道路の大黒PAで6台同時充電が可能な充電器の運用が開始され、今後、サービスエリアなどへのさらなる設置が期待されているところです」

大黒PAに設置された充電器は充電ケーブルの軽量化等によって操作性も改善し、2020年度のグッドデザイン賞も受賞している(提供元:株式会社e-Mobility Power)

大黒PAに設置された充電器は充電ケーブルの軽量化等によって操作性も改善し、2020年度のグッドデザイン賞も受賞している
(提供元:株式会社e-Mobility Power)

杉浦「充電待ち時間に関する話題として、個人的には大規模な充電スポットにショッピングモールやテーマパークを併設するなど、待ち時間自体を楽しめる、30分といわず丸一日楽しめる場所を作ってしまうようなプロジェクトをどこか企画してくれないかと期待したいところです。新しい時代に合わせて、私たち自身のライフスタイルも変えていく必要がありそうですね」

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