環境へ放出する場合の国の基準(告示濃度限度)
国が法令※で定めた、福島第一原子力発電所から放射性物質を環境へ放出する場合の、核種毎の放射能濃度の上限のこと。
※東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関して必要な事項を定める告示
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トリチウムは水素の仲間で、多くは酸素と結びつき、水とほぼ同じ性質の液体として存在する放射性物質です。
トリチウムが出す放射線のエネルギーは非常に弱く、紙1枚でさえぎることができます。
トリチウムは水素に中性子が2つ加わったもの(三重水素)で、水素とほぼ同じ性質を持っています。
普通の水素より原子核が不安定な状態のため、中性子のひとつが電子を放出し、陽子へと変化します。その結果、ヘリウムになり、このとき放出される電子が放射線の一種であるベータ線です。
放射線にはアルファ線・ベータ線・ガンマ線・エックス線などの種類があります。物質を通り抜ける力は放射線の種類によって違います。
トリチウムの場合は、ベータ線だけを放出しますが、そのエネルギーは非常に弱いため、紙1枚でさえぎることができます。
トリチウムは、全国の雨水や海水、水道水の中にも1リットルあたり0.1~数ベクレル※1含まれています。
トリチウムは、宇宙から降りそそいでいる放射線(宇宙線)と大気がまじわることによって常に生成されています。そのため、トリチウムが水素の代わりに酸素と結びつき、「水」のかたちで大気中の水蒸気や雨水、海など自然界に存在しています。全国の雨水や海水、飲料水の中にも1リットルあたり0.1~数ベクレル含まれており、飲料水などを通じてトリチウム※2を摂取することで、私たちの体内にも数十ベクレルほどのトリチウムが常に存在しています。
※1 放射性物質がどのくらい放射線を出す能力があるかを表す単位です。
※2 WHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドラインでは、飲料水に含まれるトリチウムの濃度指標は10,000ベクレル/リットルです。
トリチウム(三重水素)が出す放射線(ベータ線)のエネルギーは非常に弱く、直接測定することができないことから特別な分析方法で濃度を確認する必要があります。分析する試料中のトリチウムの濃度検出レベルによっても異なり、試料採取から測定結果を得るまでに、数日から最長で1か月程度の時間を要しますが、可能な限り速やかに公表できるよう、最善を尽くします。
トリチウム(三重水素)の分析にあたっては、「(文科省)放射能測定法シリーズ9『トリチウム分析法』」に準じた方法で実施しています。
トリチウムから出る放射線(ベータ線)のエネルギーは、紙一枚でさえぎることができるほど非常に弱く、セシウム等の分析で使用する測定機器では分析できません。
そのため、海水などの液体試料の場合は、測定を行う前には、他の放射性物質から放出される放射線の影響をなくすことや、水中に浮遊する懸濁物質による消光を防止するために、蒸留により不純物の除去を行います。さらに、不純物を含まない蒸留水に、放射線(ベータ線)が当たると発光する薬品(シンチレータ)を添加し、一昼夜、暗所で静置するなど、複数の前処理が必要です。
なお、トリチウムの濃度が非常に低い試料を検出するには、蒸留水のトリチウム濃度を上げるための電解濃縮という処理が加わります。
はい。
魚類・海藻に水の状態で含まれるトリチウムの分析には、試料を凍結真空乾燥して、蒸発した水分を水に戻して回収するなど、海水などの液体試料以上に前処理が必要で、時間と専門性が求められます。試料の状態や濃度検出レベルにもよって異なりますが、分析には少なくとも1週間から最長で1か月程度の時間を要します。
魚類・海藻には、魚類・海藻に水の状態で含まれるトリチウム(FWT)だけでなく、有機的に結合した状態のトリチウム(OBT)もあります。有機的に結合した状態のトリチウム(OBT)の分析には、試料を凍結真空乾燥した後、乾燥試料を燃焼して燃焼ガス中の水分を回収するなど、海水などの液体試料や魚類・海藻のトリチウム(FWT)以上に特別な前処理が必要であり、時間と専門性が求められます。試料の状態や濃度検出レベルにもよって異なりますが、分析には少なくとも1.5週間から最長で1か月程度の時間を要します。
なお、魚類・海藻のトリチウム(FWT)濃度は、一般的に採取地点の海水のトリチウム濃度と同程度※であることから、海水の分析結果により魚類・海藻への影響を早期に検知できると考えています。
※トリチウムは水の状態で水生生物に取り込まれてもほとんど濃縮されず、速やかに排出されるため、水生生物での濃縮係数はほぼ1とされています。
当社が福島第一原子力発電所の20km圏内で採取した魚類のトリチウムの測定結果(2020年度)では1キログラムあたり0.052~0.092ベクレルで、魚類の採取地点付近の海水中のトリチウム濃度(1キログラムあたり0.052~0.093ベクレル:2020年度)とほぼ同じ値になっています。
定期的にサンプルを採取し、放射性物質の濃度を“全ベータ測定”と“核種分析”の2つの方法で分析しています。
タンクに貯蔵しているALPS処理水等は、トリチウム以外にも放射性物質が含まれています。その放射性物質の濃度については、さまざまな放射性物質から出るベータ線をまとめて短時間で測定できる“全ベータ測定”と、告示濃度限度に対して検出濃度が比較的高い主要な7つの放射性物質(※)の各濃度の合計値で評価する“核種分析”の2つの方法で分析しています。
2018年10月、全ベータ測定値と核種分析の合計値に差(かい離)があることが分かり、その後の調査で、差分は7つ以外の炭素14,テクネチウム99が起因していることが分かりました。(2019年1月17日公表)
今後は、主要な7つの放射性物質に加え炭素14およびテクネチウム99についても分析し、全ベータ値との差がないかを確認していきます。また、炭素14、テクノチウム99以外の不明な放射性物質がないかも調査します。
なお、環境中に放出する場合、トリチウムを除く核種の告示濃度比総和が1以上の処理途上水は2次処理して、告示濃度比総和1未満にする方針としています。
(※)主要な7つの放射性物質(主要7核種)
セシウム134,セシウム137,コバルト 60,アンチモン 125,ルテニウム106(+ロジウム106),ヨウ素129,ストロンチウム90(+イットリウム 90)
処理水に含まれる炭素14の濃度は、放射性廃棄物の国際的基準に沿う形で導入されている国の規制基準を満たしています。
原子力施設から放射性物質を含む液体又は気体を環境中に放出するにあたっては、公衆や周辺環境の安全確保が大前提であり、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に沿って従前から定められている国の規制基準を確実に遵守することが求められています。
ALPS処理水等の貯蔵タンク(2020年6月末までに分析を実施したタンク;計80基)における炭素14の濃度は、国の規制基準(告示濃度限度)である2,000ベクレル/リットルに対して、平均で42.4ベクレル/リットル※です。仮にその水を、成人が毎日約2リットル、一年間にわたり飲み続けた場合でも、年間で0.021ミリシーベルト程度となっています。
ALPS処理水等(炭素14も含めてトリチウムを除く核種の告示濃度比総和が1未満)を環境へ放出する場合は、トリチウムの濃度が国の規制基準を十分に下回るよう100倍以上に希釈を行うことで、周辺地域の皆さまの健康や環境、産物等に関する安全をしっかりと確保してまいります。
※ 最小2.53ベクレル/リットル、最大215ベクレル/リットル
国のトリチウムを含む水の環境放出の規制基準(1リットルあたり60,000ベクレル)は、原子力施設の放水口から出る水を、毎日、その濃度で約2リットル飲み続けた場合、一年間で1ミリシーベルトの被ばくとなる濃度から定められています。
【参考】自然放射線から受ける被ばく線量(年間平均・日本)は約2.1ミリシーベルト
トリチウムの規制基準については、各国によって値が異なります。これは、基準値を決める際の考え方が異なるためです。
例えば、世界保健機関(WHO)の基準値(1リットルあたり10,000ベクレル)は、飲料水に関し、放射線防護の措置が必要かどうかを判断する値として定められています。また、EUの基準値(1リットルあたり100ベクレル)は、同じく飲料水の基準で、追加調査の必要性を判断するスクリーニング値として定められています。
日本では、飲料水や食品のトリチウムに関する基準はなく、トリチウムを環境に放出する時の濃度に規制基準を設けて安全性を管理しています。
【参考】各国の水中におけるトリチウムの規制基準
EU | 100ベクレル/リットル(飲料水でのトリチウム濃度限度) |
アメリカ | 740ベクレル/リットル |
カナダ | 7,000ベクレル/リットル |
スイス | 10,000ベクレル/リットル |
(参考)WHO | 10,000ベクレル/リットル |
フィンランド | 30,000ベクレル/リットル |
オーストラリア | 76,103ベクレル/リットル |
1年間毎日、この濃度の水を約2リットル飲み続けたとしても0.22ミリシーベルトとなります。なお、2014年から実施している「地下水バイパス」の排水の基準と同じです。
「地下水バイパス」の排水は、以下の3点を考慮して、主要な4核種(セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、トリチウム)の運用目標値を設定しています。
・環境放出の規制基準(1リットルあたり60,000ベクレル)および世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドライン(1リットルあたり10,000ベクレル)を下回る値であること。
・敷地境界線量を1ミリシーベルト/年未満とするために、「直接線・スカイシャイン線に起因する線量」「気体に起因する線量」「液体に起因する線量」の3つの項目を管理する値を決めており、そのうち、「液体に起因する線量」は全体の2割程度割り当てられることから、年間の内部被ばく線量(ミリシーベルト)に相当する告示濃度限度比が約0.22となるよう、地下水バイパスの主要4核種(セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、トリチウム)で配分。
・トリチウムは地下水へ移行しやすいことを配慮。
【地下水バイパスの運用目標と各基準等の整理】
※ND:検出下限値未満
国が法令※で定めた、福島第一原子力発電所から放射性物質を環境へ放出する場合の、核種毎の放射能濃度の上限のこと。
※東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関して必要な事項を定める告示